西暦2013年 本格的自然釉 武吉廣和 新作展 玄のシリーズ
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祝 高速道路開通  赤松30トン、10昼夜の焼成。

期間:2013年 10 26日(土)〜27日(日) 時間:AM 10:00〜PM 6:00
会場:ギャラリー しばさき
   〒787-0021 高知県四万十市中村京町3-4
  <ギャラリーしばさき 地図>
   Tel/0880-35-2679
   武吉廣和/0880-23-0054・090-4506-0572

花と床の間
「ギャラリーしばさき」での個展は3年ぶり。
今回は5年ぶりに焚いた窯の新作展なので、壷や花入れやピラミッドの他に、茶碗、まな板皿、割山椒向付や、木の葉皿、マグカップ、片口、小鉢、手びねりの箸置きというような小物も揃っている。

芝崎さんは私が現在地で穴窯を焚きはじめた30数年前に作品を購入してくださり、使用中に小さな破損が生じ、なんと京都まで金継ぎに出したというおひと。この猛暑の夏に伺った際も、軽くて使いやすいよう設計、特注した根来(ねごろ)塗りの大テーブルで涼しげなお茶とお姉様御手製の羊羹を御馳走になった。
いつぞやも、見事な栗の渋皮煮が出たので、「お茶事用に作ったの?」と言うと、静かに「日常です。」と言われてしまった。

少年時代、佐川で葉に覆輪のあるささゆりの栽培に失敗したことを話したら、土佐の山々でのささゆりの自生地の話をしてくださった、さらに山芍薬の話から話が進み、「ピラミッドシリーズの作品の◯◯に生ける花はクマガイソウを想定している」と言ったら「それなら四万十町に栽培されている方がおいでます。」とのこと、かく言う私はクマガイソウの花を実際に見たことはない、花を求めて、長い間、山里を巡ってきたひとと分かった。
そういえば昔、私の窯場を訪ねてくださった時も、奥山に花を見に行った帰り道ということだった。

今でも日本は世界一の陶芸王国である、その理由を考えれば、鎌倉時代に踊り念仏で知られた一遍上人の時宗に従う阿弥衆の功績にはじまる。かの有名な本阿弥光悦もその名のとうり日本刀の研ぎと鑑定を生業にする信仰心篤い阿弥衆のひとりである。
室町時代の足利義満の同朋衆以来600年以上、阿弥衆の努力によって立花、茶道、猿楽能、作庭、連歌、等々が芸能文化として成立し、その後、体系的に完成する。
これが現在の日本文化の骨格となっている。これが陶芸王国の母なる文化になっている。
足利義政が収集した「東山御物」を鑑定した相阿弥にみられるように、和歌、花道、茶道、能猿楽、作庭を通して総合美学を修めた目利きという人々も◯◯鑑定団として昨今、テレビに出てくる。

日本独自の自然釉の穴窯の稼働した時代は鎌倉から室町、桃山時代という立花や茶道や能の成立期と重なるし、建築的には床の間という書院造り、数奇屋造りという日本建築の白眉が生まれた時代である。
それゆえ、自然釉の壷や花入れには梅や桜や椿やホトトギスなど日本の山野に自生する花木がよく映る。極寒のシベリアやアラビアの灼熱の砂漠というような厳しい風土では、日本特有の山紫水明、花鳥風月という文化は望めない。

おいしい空気を胸いっぱいに吸って、渓流の瀬音を聞きながら、枯れ木を手折って杖にして元気に散策すれば、ヤマユリ、山路のホトトギスやリンドウなど、数百年前に阿弥衆が愛でたと同じ風景のなかで同じ山野草に今でも出会う。
町中でも、四季おりおりの花が咲く茶花園のような風情の庭を愛でるおひとも居る。
花屋で、枝ぶりのいい、季節の茶花が売られているような土地に行くと素養のある人達の存在を感じて嬉しい。
そういう風土は樋口真吉(中村)、ジョン万次郎(土佐清水)、小野梓(宿毛)や幸徳秋水(中村)のように混乱期に時代を切り開いた人物にも重なる気がする。
現在、物質文明の爛熟とともに、手の平の表と裏のように一体になった精神文明の興隆をも私たちは感じている。
21世紀という精神文明のオーラは地球を包み込んでいるが、綿々とこのような精神的素養を培ってきた幡多の風土は尊い。

建築を専攻していた学生時代、東京という大都市の盲目的膨張に悩んだ。東京の四畳半の下宿で、あぐらをかいて酒を呑み、新聞紙を丸めて1000キロ遥かな我がふるさと土佐を眺めたとき、その猛々しい風土にふさわしい、中世の野放図な自然釉を超え、21世紀精神文明型に完全シフトした自然釉の重厚な「あるべき壷」を観た。
以来40年が経つ、自然釉の体系的完成期に入って12年が経つ、遠い昔に観た幻の壷は今こうして現実となって手許にある。
不思議といえば不思議なことだ。

前回の個展で、実際にしばさきの床の間に作品を置き、花を活けて観るに、しばさきの床の間の空間はまさしく玄であった。
これを建てた先代の素養は尋常ではないと思った。こういう原生林ならではの逸材による日本建築という空間で個展が出来るのは希有である。
ずっと床の間を捜しているが、たくさん在るのにひとつも無い。

今回の窯の新作「玄のシリーズ」は、ギャラリーしばさきの空間を想定して笹百合が映るよう、玄(くろ)く焼いた。
初夏に新作展を打診したら、美しい紅葉の始まる満月の頃となった。

 
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