純日本の壺 展
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祝 高速道路開通  穴窯で赤松30トン、10昼夜の焼成。

期間:2014年 11 8日(土)〜12 28日(日) 時間:AM 9:00〜PM 5:00 *木曜定休
会場:ギャラリー 龍窯
   〒786-0097 高知県高岡郡四万十町日野地326
  <ギャラリー龍窯 地図>
   Tel&Fax/0880-23-0054
   作家携帯/090-4506-0572
   ● 龍馬空港からギャラリー龍窯まで 車で1時間半。
     四万十町中央ICより 車で25分、松葉川温泉 手前1kmに看板あり。

 
ハチマキという高知県在来種大豆とモンサント社の遺伝子組み換え大豆

河田昌東氏(名古屋大学理学部)の「遺伝子組換え食品の安全性に疑義あり・・・安全性は確認されているか・・・」をネット検索で読んで勉強になった。河田昌東氏のチームには感謝している。

昔、小学校の総合学習の授業で、一日目は押し型文尖底土器の制作,日を置いて2日目は中国の雲南式での土器の焼成、3日目は尖底土器で縄文料理をそれぞれ焚き火して、自分の作った土器で、煮て食べるということをやった。
8000年前、縄文早期の香美市の刈谷我野遺跡出土の尖底土器復元で当時の生活を体験してみようという目的で、頁岩を割った石器で鹿肉、イノシシ肉を切り、やまいもをつなぎにしたドングリ団子をこねて、調味料は海水で煮詰めたハマグリを天日乾燥したものを入れて煮た。デザートはドングリ粉に山芋、蜂蜜、クルミをいれた縄文クッキー。

驚いたのは、田舎の子供たちなのに、焚き火をした経験がなく、薪を燃やせなかった、危ないのでしてはいけないことになっている、これでは何かのときにサバイバル出来ない。ひとりだけ出来る子供がいたので理由をきくと、「五人兄弟の長女で、私が毎日お風呂を薪で湧かしているから。」ということだった。
そして授業後の子供たちの感想は「味が無い!」という意外なものだった。カレーやマグドナルドハンバーガーやジュースのようなインパクトのある味が当たり前ということだろう。
真逆の当たり前のことだが、縄文時代は味噌も醤油もソースもマヨネーズもケチャップも無い、洗練されたドレッシングも無い。アク抜きしたドングリは確かに味は無いということになる、ここが1万年間主食になれた必須条件なのだけれど。

5300年前の青森県の三内丸山遺跡でマメの炭化物が土器に付着していた、分析の結果、大豆ではなく大豆の先祖のツルマメということになった。
丹波の黒豆は細胞内のミトコンドリアから、中国由来の大豆ではなく、日本に自生している雑草のツルマメを一万年間、大粒選択により改良した大豆であることが分かっている。縄文時代、各地の貝塚遺跡の発掘から海水で煮詰めて干したものの流通はあるので、雑草のツルマメの「ミニミニ大豆」と「塩」で「縄文味噌」をつくってみようと思った。
土器と海藻のホンダワラで海水を煮詰めた「藻塩」という塩の製造流通は縄文晩期に陸稲を栽培し米を食べるようになってからで、ドングリ食で豊富なミネラルを摂ることができなくなってから。
窯場のまわりやどこの野原や川岸でも生えている雑草のツルマメの実を丁度今頃、初霜の頃、何日も何日もかけて、丹念に集めて、味噌屋さんに無理を言って、「縄文味噌」を造ってもらった。
牧野植物園のIさんに持って行ったら「前々から一度は食べたいと思っていた。」と喜ばれた。
後で感想を聞いたら「一度は食べたいと思っていたが、もう一度食べたいとは思わない。」と笑わせてくれた。豆が小さくて石のように堅く、なかなか麹が食いつかないので現代の味噌のようにマイルドにはいかない、困難を極めたがやはり味噌の原点には違いなかった。

日本の大豆の自給率は、今やたったの5パーセント、現在、輸入大豆の約8割がアメリカの多国籍農薬会社モンサント社の開発した除草剤耐性遺伝子組み換え大豆であるという。アメリカではエタノール原料ブームをきっかけに、手厚い報償政策で遺伝子組み換えトウモロコシが90%以上になっている。害虫に有害なタンパク質をつくり出す細菌の遺伝子を組み込んだもので、害虫がこのトウモロコシを食べるとそのタンパク質の毒素によって死んでしまうので殺虫剤をまかなくていい。
日本に輸入されるトウモロコシの7割以上が遺伝子組み換えトウモロコシであるという。
小麦のほうは警戒感が強く、アメリカでは農場にあるはずがない除草剤耐性遺伝子組み換え小麦が自生している汚染事実が明らかになり、二つの州でモンサント社は損害賠償の訴訟を起こされている。

ミツバチが方向感覚を失い巣箱に帰れなくなる巣箱崩壊で大問題になった有機リン系農薬の一種で耕作土に最初から仕込む「ネオニコチノイド農薬」もモンサント社の製品。
こんなでは、日本の老人が方向感覚を失って家に帰れなくなる「老人の徘徊」という現象もモンサント社のネオニコチノイドのせいかなあ・・・と思ってしまう。 因みに、あの地下鉄サリン事件のサリンも有機リン系である。
我が家の軒先に、ミツバチの天敵である黄色スズメバチの大きな巣が出来た際、農薬の「スミチオン」を滲み込ませたボロ切れを割り箸に巻付けたものを夜、竹竿で大きな巣に差し込んで駆除したが、どこのホームセンターでも売っている「スミチオン」も有機リン系の農薬である。
アインシュタインはミツバチが絶滅すると、たった3年で人類は滅びると言った。ここのような山奥でも、信じられないことだが、ミツバチの数は3分の一に確実に減っている。

モンサント社は、ベトナム戦争でジャングルを枯らす「枯れ葉作戦」の「枯れ葉剤」を製造した。アメリカはベトナムで四国全体の面積に匹敵する広さのジャングルと水田に7500万リットルの枯れ葉剤を撒いた。
ベトナム戦争終結後、だぶついた「枯れ葉剤」を「除草剤」として日本に売り込んだ。
当時の窪川町の役場の「除草剤」普及係の知人は安全だとPRして液体を人前で舐めてみせた。ベトナム戦争後の奇形児、奇病の発生、ベトナム戦争の枯れ葉作戦従事兵のガンや白血病の発症で、今ではその「安全とされた枯れ葉剤=除草剤」の中に不純物として猛毒の塩素系のダイオキシンが入っていたことは誰でも知っている。

モンサント社の除草剤ヒット商品「ラウンドアップ」の除草有効成分であるグリフォサートという有機リン系の化学物質は、植物体内のEPSPSというタンパク質合成をする酵素の働きを阻止して植物を枯れ死させる毒物である。
モンサント社グリフォサート製造工場の排水中から発見されたグリフォサート耐性細菌の遺伝子を組み込んだ大豆が、「除草剤ラウンドアップ散布でも枯れない遺伝子組み換え大豆」である。
モンサント社の日本の取り引き会社は住友化学で、住友化学会長の米倉弘昌氏は2014年6月までの4年間、日本経団連会長を務めTPPを推進した。TPP後は、遺伝子組み込み作物の表示義務は無く、日本政府よりもモンサント社のほうが権力を持つ。

例えばモンサント社の遺伝子組み換え大豆が高知県の畑で栽培されるようになると、日本中の雑草であるツルマメと花粉で交雑し、除草剤でも枯れない遺伝子組み換えツルマメに変化する。さらに、日本中のツルマメを介して日本中の在来種の大豆までもが遺伝子組み換え大豆になって汚染されてしまう。 そして将来、人体にとって有毒であるとわかった時には手遅れで、放射能のように目には見えないし、もはや除染が不可能である。
これは極論だが、将来、汚染の無い在来種大豆の種子を北極圏のノルウェーのスヴァールバル世界種子銀行からそれなりの代償と利子を払って借りても、汚染を防ぐため、厳重なシェルターの中でしか汚染のない、安全、安心な大豆を栽培できなくなる。
モンサント社も、スヴァールバル世界種子銀行もロックフェラーが作ったようなものなので、細菌兵器とワクチンとがセット、あるいは核兵器と核シェルターとがセットになっているようなもの。

高知県立農業試験場で「高知県内各地の篤農家から無償で提供してもらい、ちゃんと発芽するように2年ごとに更新している高知県の在来種の大豆の種を分けて。」と言ったときに「一人にやったら皆にやらないかんから出さん!」という責任者の返事だった。次元の低さに、わたしは「県民の税金で県民の大豆研究のためにやっているのではないのか!」と腹を立てた。
このとき、日本の豆のオーソリティーが「日本の大豆はアメリカにやられた!」という意味が分かった。
もともと日本は大豆王国でアメリカに大豆は無かった。ヨーロッパには土壌中に根粒菌がいないので大豆は育たない、氷河のせいだろうか、ドイツはずいぶん頑張ったがあきらめた。

アメリカのモンサントの遺伝子組み換え大豆統一に対抗して、今や絶滅に近い国産大豆を全国統一品種にする第一段階として高知県内の農家に均一品質の「フクユタカ」を普及させ、強い食品産業に、強い供給をすることが高知県立農業試験場のミッションだと想像している。そのためには各地の個性的な色や模様の表皮や白や黒いへそを持つ、自家採種されてきた、個性的かつ伝統文化ともいえる在来種大豆は、市場では「まとまった量がない」というただそれだけで値の付かない「雑豆扱い」、さらには推奨大豆への花粉交配を忌避して「駆除の対象」としてとらえられているのかもしれない。
しかし品種として「フクユタカ」にも負けない優秀なものが確かにあるので、高知県のシードバンクとして毎年更新して占有しているのだろう。そして同じ論理で、われわれ先住民には、ロックフェラーのシードバンクにも期待は持てないことを感じた。
それからは知人友人を介して、自分の足で道の駅等を丹念に回って捜した高知県在来種の大豆やトウモロコシを栽培することにしている。

シードハンターもやってみると楽しい、だれでも出来る。
たとえばハチマキは7月に種を蒔き、11月に収穫する。5月、6月に植えると葉がほこって豆がつかない。
標高の高い道の駅や農産物直販所に珍しい在来種大豆が顔を出すことがあるのは、霜が降りる頃から年末頃まで。
物部川の奥物部の聖地「神池」から貰ってきた「ハチマキ」という秘伝の大豆を四万十川のここで栽培しはじめて5回目の秋である。快晴の日に明るいベランダに出て、毎日毎日、約1万粒の豆をサヤから取り出し、一粒ずつテェックして、1個だけチャーミングな突然変異を見つけた。
縄文時代から1万年以上やってきたことを私も縄文人を見習ってやっている。
「武吉廣和のHATIMAKI PROJECT」5年目にしてやっと一個。

四万十町で広く栽培されている「フクユタカ」の「フク」は九州の福岡県の「福」だと想像している。高知県農業試験場推奨品目の大豆で、農家に手厚い補助金が出、2009年当時、30キロ5000円で「懸米」経由で販売されていた。
在来種大豆の各地の道の駅での販売価格は同じ30キロで比較すると約3万円前後で、なんと価格に6倍やそこらのひらきがある。中山間部切り捨て政策が続き、後継者もいない80歳以上になったお年寄りの百姓夫婦が自家用に細々と自家採種で何百年も続けてきて、いいかげん絶滅種なのに、これでは誰がどう考えてみても価格競争でさらに追い打ちをかけているとしか見えない。
在来種の大豆が絶滅すれば選択肢が無くなり、「フクユタカ」の種を買わなければならなくなる。
さらにはモンサントの遺伝子組み換え大豆の種を買わねばならなくなるかもしれない。
3年に一度、あるいは毎年、種を買い更新しなければ、品質劣化により、市場に買い取ってもらえなくなる。
モンサント社からラウンドアップと高価な遺伝子組み換え大豆の種を毎年買っても、周辺の雑草まで完全に殺せず、その結果、雑草に耐性が出来、ラウンドアップを散布しても枯れない雑草が生まれる。人間で言えば、「どんな抗生物質も効かない結核菌」のような「モンスター雑草」が生えてくる、実際、世界各地ですでに起っている。

日本では、菜種でも、この同じ汚染現象はすでに起っている。キャノラー油原料として輸入された遺伝子組み換えの菜種が船から陸揚げされ、トラックの荷台からこぼれ落ち、港から工場へのルートの国道沿いに拡散して、自生している。除草剤が効かないから手で引き抜くしかない。
将来、大根や小松菜だけでなくアブラ菜科すべての植物、例えば、キャベツやブロッコリーと交雑することも危惧されている。

長い目でみれば原発と同じように汚染除去不能で草の葉一枚食べれなくなる。
昆虫がいなければ、草が生えなければ、人は生きていかれない。その土地で氷河時代から1万年間の気候変動、火山活動、昆虫、鳥、鹿、細菌、雑草達とともに生きてきた在来種の農産物をも純日本の伝統文化として大切にしよう。

奥物部 神池秘伝 ハチマキ味噌

2014年12月16日はHATIMAKI PROJECTにとって記念すべき日となった。
ハチマキという高知県在来種の大豆たったの300グラムを10時間水浸し、圧力釜で蒸して天日塩と米麹を混ぜて味噌を造ってもらった。麹屋のIさんと料理研究家HさんとI氏たちとの偶然というにはあまりにも不思議な出合いの結果、造っていただいた。
わずか1,4キログラムほどの味噌だが、わたしには重い思いがある。

日本初のオーガニックマーケットを立ち上げた、故、広瀬純子さんに会った際「高知の在来種の無農薬大豆で造ったオーガニックの味噌をここ(高知市池で開催されているオーガニックマーケット)に品揃えすることが私の悲願です。お客様からのお問い合わせはあるのですが、ありません・・・とお断りしなければなりません・・・。」と言われて、もう5年も経ってしまった。
わずか10粒のハチマキを畑に蒔き種を増やすことからスタートして5年である、鹿の食害やら枝豆として人間が食べてしまったり、いろいろあった。

縄文味噌からのスタートなので、ほんとうは豆味噌でいくつもりであった、米は縄文晩期から、麦の伝播は7世紀と新しい。
地元の農産物直販所の麹売り場の前で「やっぱり米麹しか無いか・・・」と呟いていた。
米麹でも麦麹でも大豆と同量を合わせるので大豆の純度が半分に下がる。日本では大豆だけでつくる豆味噌は名古屋のハ丁味噌だけなので、毎晩八丁味噌を舐めながら酒を飲んでいた、これが今まで5年間続いた。

人口爆発のなか、アメリカの家庭菜園禁止法やら、オバマが最高裁判事にモンサント関係者を据えた・・・等々の世界の食料事情は属国化した日本を寒からしめるものがある。
せめて辰巳芳子さんの「大豆100粒運動」に協調しようと山奥でこつこつやっている。

脳死は死でない

今年も紅葉の美しい季節になった。一日中、夜中も鹿の澄んだ鳴き声が聞こえてくる、繁殖期になっている。

超ベテラン猟師のOさんから「鹿一頭、要りませんか?」と妻の携帯に連絡があったので窪川の街中にある自宅までとんでいくと2歳くらいの可愛らしいメスだった。
窯場に持って帰り、以前、現代アートの女流作家から角や骨や毛皮のようなアート素材としての視座から鹿の解体シーンを見たいという話があったので連絡すると、遠くて、今回は時間的に都合がつかないのでパスという返事だった。
すると再び山中のOさんの携帯から「大きなイノシシがかかっているのですがいりませんか?」と言う、さすがにびっくり。
有り難い話だが、昼下がりをとっくに過ぎていて、貰った小ぶりの鹿の解体だけで未熟な私では最低3時間はかかるし、どう計算しても徹夜作業になる、大イノシシの全身の剛毛を熱湯を掛けながら剃るのが未だクリアー出来てない、一人で延々と悪銭苦闘することになる。当然冷蔵庫にも入りきらないし、慌てて指でも切ると制作に影響するので辞退した。

獲れないときは何週間も獲れなくて、獲れるときには1日に4頭も獲れたりで、21世紀に入って特に顕著になったが、太陽活動も地球の挙動も人類の政治経済情勢も雨の降り方も狩りの獲物までもがシンクロニシティする。
今年も猟師のOさんのおかげで肉に困ることはなかったし、家庭菜園ではネコと狸以外の足跡は見かけないようになった、感謝である。たった一匹の瓜坊の跳梁で近隣一帯の農家が街のスーパーまで野菜を買いに出ねばならなくなった。そうしてたった一人の猟師の存在でこうも違う。

田舎暮らしをしようと思えば、イノシシ、鹿、アナグマ、猿等の狩猟が必須条件になる時代になっている、鹿とイノシシの獣害は、ある日突然、2011年から始った。
昼に会った時にOさんは「先日、鹿肉料理の講演会に行ってきました、脳みそが一番美味しいって言ってました。」と言って、講師の名刺を見せて下さった。
真ん中に大きく名前をひらがなで書いてあって「にくしまきみこ」と読めたので「肉料理にふさわしい名前ですねえ!」と言って、「私もノコギリで開頭して、蒸して、マヨネーズを掛けて食べました、ブリの白子のようでした。」と言った。
帰ってネットで検索したら大栃方面在住の西熊きみこさんという女の方だった、イノシシと鹿のラードとハーブで石けんも作られているらしい。

解体してみると、ちゃんと血抜きも出来ていて、ほのかに体温もあり、心臓も肝臓も肺もきれいで、脳の鮮度も大丈夫だった。
テレビドラマの検死官役になりきって死亡推定時刻を宣言する。
フランスでは脳は猟銃で仕留めてから3時間以内にジビエレストランに持ち込むと本に書いてあったように思う。
ベルギーのノーベル賞祝賀料理は鹿料理だとか。アメリカでもかなりの高級レストランでしか鹿料理のメニューはないとか。
聖書にも清い肉と書いてあるそうな、貴重かつ高級品である。

鹿の、脳、心臓、肝臓、タン、腎臓、肺、背身ともも肉、スペアリブ、筋肉に包まれた頸骨、スープにする脊椎を食材として切り取る時、今度はブラックジャックになりきって、臓器移植というシチュエーションで行動することにしている、「はい1番さん、心臓!(ジェット機でアメリカへ飛ぶ)。次、2番さん肝臓!(ジェット機でフランスへ)。次、3番さん腎臓!・・・」。
冗談で心を軽くしながら料理の一端と割り切ってやっているが、どうしてもわたしはこの時、我々人間の脳死とドナーカードと臓器提供と臓器移植のあまりにも重い問題を考えてしまう。

1992年出版 臓器移植の前提となる「脳死は死である」に関する「臨時脳死及び臓器移植調査会」の顛末後記、梅原猛編「脳死は死でない。」思文閣出版 から興味深い部分を引用させていただく。

梅原猛氏と河合隼雄氏との対談からの抜粋

河合隼雄氏の発言(P108)
いま、生まれるまでにタマゴでいろいろ操作できますね。だから、タマゴのあいだに操作して、たとえばニワトリにウズラの羽がつくようにできるわけです。そうすると、生まれてきてしばらくたっても、羽は拒絶されるわけです。拒絶反応を起こすのです。ところが、おもしろいのは、ニワトリにウズラの脳を入れたわけです。そうすると、ウズラの脳だから、それはいわば脳はウズラでしょう。ところが、脳のほうが拒絶されたのです。それで、脳が拒絶されて死んでしまうのです。そうすると、そのときに、「これはおれの脳ではない」という判断が下ったわけですよ。

梅原猛
だれが判断を下したんだ。

河合隼雄
それは脳では下していないわけです。

梅原猛
身体がしたということですね。身体が思惟能力を持っているわけだ。

読後の鹿解体人の私なりの感想を述べると、太陽も、月も、地球も、人間も、鹿も、・・・わかりやすく簡単に言うと、肉体と幽体と霊体と神体という異次元多重構造になっているので、この場合、「これはおれの脳ではない」という判断を下したのはウズラの脳とニワトリのタマゴに伴う肉体と幽体と霊体と神体の総体意識ということ。
臓器移植に必ず伴う拒絶反応は、宇宙の法則に反するというレッドカードだと思う。
自分が死して自分の肉体がほとんど荼毘に付されて後、この世の罠のようなドナーカードの契約により、自分の心臓なり肝臓なりが他人の肉体の生の営みのなかに残って「他人の一部として生きて」機能し続けることは、此岸につないだロープを全部断ち切り尽くさず、例えば、生きた心臓という一本の強靭なロープで港に繋留したまま彼岸に向けて出港しようとする三途の舟のように。自分にとっても臓器移植を受けた人にとっても「浮かばれない」状況が生まれるのではないかということ。
出産すら可能な脳死状態で「死亡」と医者に法的に断定され、総体意識は覚醒しているにもかかわらず、臓器移植の資材として、移植を待つために「生命維持装置」をつけられる。

「死にたくとも死ねなくなるかもしれない時代」に我々は生きている。
代理母や人工授精の試験管ベビーの問題で浮き彫りになる「受精卵は人か」という問題をも含めて、脳死臨調後20数年を経て、タイの12人の代理母事件のように、さらにスピードを増すテクノロジーの暴走に、一部の人間の倫理では歯止めにならない現状が続いている。

鹿、イノシシの狩猟での血抜きは何故必要か

鹿がワイヤーのくくり罠にかかって、すでに死んでいた場合、血抜きはもはや出来ない。
少しでも腐臭がする場合は書くまでもない。
解体中、まだ体温が残っている場合は大丈夫だが、内蔵、そして内蔵を保護している腹膜のほんの一部でも緑色になっている鮮度であれば、もう、その一頭の鹿全部が臭くて食べられないように思う。
私はこういう場合、畑のすぐ外側に無数にあるイノシシが山芋を掘った深い穴に埋め、狸に掘り散らかされないように平たい大石でふさぎ、1メートルばかり離れたところに栗の木の苗を植える。

野中兼山は太平洋の大海原を前に延々と続く長浜の砂浜を領民の土葬の墓地として定め、防風林、防津波林として、木造船建造の最適材である松を植えた。毎日、朝晩に吹く陸風、海風と、夏と秋の台風による暴風雨に鍛えられた松は、直材でも、極端にねじれていて強靭で、薪にしょうとしても、斧を打ち込んだあと、のけぞってしまうほど、斧が跳ね返り、斧の先が刺さりもしない。チェーンソーで切ろうとしても、ひび割れた厚い樹皮に砂が食い込んでいるので刃がすぐにダメになる。
しかし、千里の波頭を越えてゆく強靭な木造船にはぴったり。

そもそも、くくり罠であれ銃創であれ、死んだ鹿の腐敗は、まず消化器系から始まる。
食べ物だけを消化していた胃酸や腸の消化液は、死後、胃腸そのものを消化し始める。
つまり、消化酵素による自家融解がおこり、そのうちに細菌が繁殖して、腐敗が加速する。この時、腐敗ガスに含まれる硫化水素が血中のヘモグロビンと結合し、緑色の硫化ヘモグロビンがつくられる。

「鹿肉が臭いという強固な風評の存在」は、鹿肉を最初に食べた時、「牛肉と豚肉業界の陰謀」ではないかと疑ったが(笑)、実は、この硫化ヘモグロビンの惡臭にあるのではないかと思う。
狩猟のプロが、トドメの際に、動いている心臓を刺さずに太い頸動脈を切るのは、心臓のポンプ作用を血抜きに利用するため。
高級鹿肉料理の前提が完璧な血抜きにあるのは、鹿の全身にはりめぐらされた血管のネットワークから、「血液」というこの「硫化ヘモグロビンの発生源」を断つためだと思う。

 

 

 

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