武吉廣和の壷

この10点の壷は窯の最も奥の同じ位置、同じ土、薪も赤松25トン〜30トン、焼成も約十日間という同じ条件(厳密には同じ土、同じ松というのはありえないが)でとれたもの。
異なることはまず焼成作戦そしてその時の天象と、その折々の私の心、私たちの心、地球の心、宇宙の心。あらゆるものは、あらゆるものを反映していると私は思っている。
科学者は南極の地下の氷のサンプルから昔の地球のことを明らかにする。
同じように、穴窯陶芸家の目で、古信楽、古丹波、古備前を観ると様々なことが分かる。
山奥の窯場に籠って30年、仕事に深く深くはいり込んていくと、 独り深海探査船に乗ってどんどん進んでいくような気持ちになる。
いままで見たこともない深海魚、いや、壷が、つぎつぎとあらわれる。
2005年春のこと、「これらの自然釉の壷は、古いもののようだけれど、研究し、それを超えて、全く新しい作家独自の世界を構築している。これだけスピリチュアルな作品は見たことがない。」これは、左列5作品への、ある国の老美術館長の言葉(通訳を介して)。
ものの本質を一撃で見抜く素養のある人(東洋美術における岡倉天心の如き)は日本でも限られている。希有の体験だった。感謝している。